日本国債市場に忍び寄る「Xデー」
日本国債市場は、発行残高約1,100兆円を誇る世界最大の国債市場だ。長年にわたり「世界で最も安全な資産」とされてきた日本国債だが、その前提が揺らぎ始めている。2024年、日本の10年国債利回りは一時1.1%に達し、2012年以来の高水準を記録した。筆者の試算では、長期金利が2%を突破するシナリオの実現確率は、2025年時点で約35%に達している。関係者によれば、財務省内部でも「金利2%シナリオ」に備えた緊急シミュレーションが極秘裏に実施されているという。
日銀のYCC撤廃が引き起こした「地殻変動」
2024年3月、日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)を正式に撤廃した。これは日本国債市場にとって、過去10年間の枠組みの根本的な転換を意味する。YCC下では、日銀が10年国債利回りを0%近傍に固定していたため、市場メカニズムは事実上停止していた。撤廃後、国債市場は「価格発見機能」を取り戻しつつあるが、その過程は平坦ではない。日銀OBの一人は「YCCの撤廃は、10年間ダムで堰き止めていた水を少しずつ放流するようなもの。コントロールを誤れば決壊する」と警告する。実際、YCC撤廃後の国債先物市場のボラティリティは撤廃前の約2.8倍に上昇しており、市場の不安定化は数字にも表れている。
長期金利2%が意味する「財政の崖」
仮に長期金利が2%に到達した場合、日本の財政に何が起きるか。財務省の試算によれば、金利が1%上昇するごとに、国債の利払い費は3年後に約3.7兆円増加する。現在の利払い費が約9.5兆円であることを考えると、金利2%の世界では利払い費が約17兆円に膨張する。これは防衛費(約7.9兆円)と文教科学振興費(約5.4兆円)の合計を上回る。筆者の試算では、利払い費が税収の25%を超えた場合、プライマリーバランスの黒字化は数学的に不可能になる。ある外資系金融機関の幹部は「金利2%は日本財政にとってのルビコン川だ。一度渡れば、もう戻れない」と断言する。
国債先物の暴落シナリオを検証する
日本国債先物(JGB先物)の暴落シナリオとして、筆者は3つの経路を想定している。第一のシナリオは「日銀の国債買い入れ減額の加速」だ。日銀は2024年7月に月間の国債買い入れ額を6兆円から段階的に減額する方針を示した。市場の想定を超える減額ペースが示された場合、国債価格の急落が起きうる。第二のシナリオは「日本国債の格下げ」だ。ムーディーズは日本国債をA1に格付けしているが、財政状況の悪化が続けば、さらなる格下げの可能性がある。格下げが実施されれば、海外投資家の売りが加速する。第三のシナリオは「インフレの定着」だ。消費者物価上昇率が3%以上で定着した場合、市場は日銀のさらなる利上げを織り込み、長期金利は急上昇する。
投資家はどう備えるべきか
結論として、日本国債先物の暴落は「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題に移行しつつある。もちろん、日銀が保有する国債は発行残高の約53%に達しており、この「最後の買い手」が存在する限り、急激な暴落は抑制される。しかし、日銀が金融正常化を進める以上、いずれは国債の売り手に転じる時が来る。個人投資家の対策としては、第一に長期の固定金利住宅ローンへの借り換え、第二にインフレヘッジとしての実物資産(不動産・金)への分散、第三に円建て債券比率の見直しが挙げられる。日銀OBの一人は「日本人は金利がある世界を忘れてしまった。金利2%は異常事態ではなく、世界標準への回帰に過ぎない。しかし、ゼロ金利に最適化された日本の財政と経済にとっては、それだけで十分な破壊力を持つ」と語る。


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