電気代の「静かな爆発」が始まっている
2024年度の一般家庭の平均電気代は月額約12,800円に達し、2020年度(約8,900円)から約44%上昇した。政府の電気代補助金(月額約1,800円相当)がなければ、実質的な負担はさらに大きい。しかし、この補助金は2025年3月で終了が予定されており、4月以降は家計への直撃が避けられない。筆者の試算では、補助金終了後の平均電気代は月額約14,500円に跳ね上がる。関係者によれば、経済産業省内部では「電気代はこの10年で現在の1.5〜2倍に上昇する可能性がある」という試算が存在するという。
エネルギーミックスの「失敗」を直視する
電気代高騰の根本原因は、日本のエネルギー政策の迷走にある。2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の大半が停止し、その穴を火力発電(LNG・石炭)で埋めてきた。2024年時点の電源構成は、火力が約72%、再生可能エネルギーが約22%、原子力がわずか約6%だ。政府の「2030年エネルギーミックス目標」では、原子力20〜22%、再エネ36〜38%を掲げているが、達成の見通しは極めて厳しい。筆者の分析では、2030年までに再稼働可能な原発は最大でも15基程度であり、原子力比率は12〜15%にとどまる。再エネの目標達成には年間約4兆円の追加投資が必要だが、現在の投資ペースはその半分以下だ。
LNG価格と為替の「二重苦」
日本の火力発電の約38%はLNG(液化天然ガス)に依存しているが、LNGの調達コストは国際市場価格と為替レートの両方に左右される。2022年のウクライナ侵攻時には、スポットLNG価格が一時的にMMBtuあたり70ドルを超え、その影響で電気代が急騰した。現在の価格は12〜15ドルに落ち着いているが、筆者の試算では円安がLNG調達コストを押し上げ、2020年と比較して円建ての調達単価は約60%上昇している。ある外資系金融機関の幹部は「日本のエネルギー安全保障の最大の弱点は、化石燃料の輸入依存度88%という数字に集約される。円安とエネルギー価格上昇の同時発生は、日本経済にとって最悪のシナリオだ」と指摘する。
再エネ賦課金の「隠れた増税」効果
電気代の内訳で見落とされがちなのが「再生可能エネルギー発電促進賦課金」だ。2024年度の賦課金単価はkWhあたり3.49円で、月間使用量400kWhの家庭では月額約1,396円の負担となる。年間で約16,800円だ。この賦課金は固定価格買取制度(FIT)の費用を電気利用者全体で負担する仕組みであり、FIT認定された再エネ設備の買取期間(20年)が終了するまで継続する。筆者の試算では、賦課金の総額は2030年頃にピークを迎え、kWhあたり4.5〜5円に達する見込みだ。月額にして約1,800〜2,000円、年間約22,000〜24,000円の負担となる。日銀OBの一人は「再エネ賦課金は実質的な目的税であり、消費税換算で約0.7%に相当する。しかし国民の大半はその存在すら認識していない」と指摘する。
電気代2倍時代への「備え」
結論として、日本の電気代は今後10年で現在の1.5〜2倍に上昇する可能性が高い。その要因は、老朽化した発電設備の更新コスト、送電網の強化費用、カーボンニュートラルに向けた追加投資、そしてLNG調達コストの構造的上昇だ。月額電気代が2万円を超える時代が到来した場合、家計への影響は甚大だ。年収500万円の世帯では、電気代が手取りの約6%を占めることになる。個人としての対策は、住宅の断熱改修、太陽光パネルの設置、省エネ家電への買い替えが挙げられるが、初期投資の負担が大きい。政策レベルでは、原子力の再稼働加速と再エネの効率的な導入拡大を同時に進める以外に、電気代抑制の現実的な解はない。エネルギー政策の失敗のツケは、最終的に国民の家計が支払うことになるのだ。


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