ユーロドルの「見えないトレンド」
為替市場でドル円に注目が集まる一方、世界最大の取引量を誇るユーロドル(EUR/USD)の動向は日本の投資家の間で過小評価されている。1日あたりの取引量は約2兆ドルに達し、ドル円の約3倍だ。2024年後半以降、ユーロドルは1.05〜1.10のレンジで推移しているが、この表面的な安定の下に「隠れたトレンド」が進行している。関係者によれば、欧州の大手ヘッジファンドの間では「2026年にユーロドルのパリティ(1.00)割れ」を前提としたポジション構築が静かに進んでいるという。
ECBの利下げ路線とFRBとの「政策乖離」
欧州中央銀行(ECB)は2024年6月に利下げサイクルを開始し、2025年初頭までに政策金利を3.25%から2.50%へと引き下げた。一方、FRBの利下げペースはECBよりも緩やかだ。この「政策乖離」がユーロドルの方向性を左右する最大の要因となっている。筆者の分析では、ECBとFRBの政策金利差が1%以上開いた場合、ユーロドルは6ヶ月以内に平均4.2%のユーロ安が進行するという統計的傾向がある。2025年時点の金利差は約0.75%であり、この閾値に接近している。ある外資系金融機関の幹部は「ECBはインフレよりも景気後退を恐れている。利下げは市場の予想以上に速くなる」と予測する。
ドイツ経済の「病」とユーロの構造問題
ユーロの長期的な弱さの根源は、ユーロ圏最大の経済国であるドイツの構造的な低迷にある。ドイツの実質GDP成長率は2023年がマイナス0.3%、2024年がマイナス0.1%と2年連続のマイナス成長を記録した。自動車産業はEV化の波に乗り遅れ、化学産業はエネルギーコストの上昇で競争力を失い、製造業PMIは47と景気収縮圏に沈んでいる。筆者の試算では、ドイツの潜在成長率は2010年代の1.4%から2020年代には0.5%以下に低下している。さらに、中国経済の減速がドイツの輸出に直撃している。対中輸出額は2024年にピーク比で約18%減少し、特に自動車と産業機械の落ち込みが顕著だ。
ユーロドルとドル円の「連動メカニズム」
日本の投資家がユーロドルを注視すべき最大の理由は、ドル円との連動メカニズムにある。筆者の分析では、ユーロドルの大きなトレンド転換はドル円のトレンド転換に平均3〜6ヶ月先行する。これは「ドルインデックス」を介した間接的な影響だ。ユーロドルが下落する局面では、ドルインデックスが上昇し、その結果としてドル円にも円安圧力がかかる。逆にユーロドルが上昇に転じれば、ドル全面安の流れの中でドル円も円高に向かう。日銀OBの一人は「ドル円だけを見ていては為替市場の全体像が見えない。ユーロドルは世界のドル需給のバロメーターであり、ドル円の先行指標として最も信頼性が高い」と助言する。
2026年のユーロドル見通し
結論として、2026年のユーロドルは下落トレンドが継続する公算が大きい。ECBの利下げ加速、ドイツ経済の低迷長期化、そしてウクライナ紛争の長期化によるエネルギーコスト高が、ユーロの重しとなる。筆者の基本シナリオでは、ユーロドルは2026年中に1.02〜1.05のレンジに低下し、パリティ割れの可能性も20%程度存在する。一方、リスクシナリオとして、ウクライナ停戦が実現した場合にはユーロの急反発が起きうる。エネルギーコストの劇的な低下がドイツ経済を復活させ、ユーロドルが1.15以上に急騰する可能性も10%程度想定しておくべきだ。為替市場において、コンセンサスと反対方向への備えを怠ることは、最大のリスクである。


✎ ご意見をお寄せください