年金は本当にもらえるのか — 厚労省の試算が前提とする「あり得ない数字」

年金制度への不信は過去最高水準

内閣府の世論調査によれば、公的年金制度を「信頼していない」と回答した国民の割合は2024年に67%に達し、調査開始以来の最高値を更新した。特に20〜30代では82%が「自分が受給する頃には年金はもらえない、または大幅に減額される」と考えている。この不信感は根拠のないものではない。厚生労働省が5年ごとに実施する「財政検証」の前提条件を精査すると、あまりにも楽観的な数字が並んでいることに気づく。関係者によれば、年金数理の専門家の間でも「財政検証の前提は現実を反映していない」との声が根強いという。

財政検証の「あり得ない前提」を検証する

2024年の財政検証では、6つの経済シナリオが提示された。最も楽観的なシナリオでは、実質経済成長率が1.6%、実質賃金上昇率が2.0%、運用利回りが3.4%という前提が置かれている。しかし、過去20年間の実績を見ると、実質経済成長率の平均は約0.5%、実質賃金上昇率はマイナス0.3%、GPIFの実質運用利回りは約3.8%だ。運用利回りこそ前提に近いが、成長率と賃金上昇率は前提を大幅に下回っている。筆者の試算では、過去20年の実績値を前提に再計算すると、2050年時点の所得代替率(現役世代の平均手取りに対する年金額の比率)は、政府想定の50%台ではなく36〜38%にまで低下する。モデル世帯で月額約12万円(現行約22万円)まで目減りする計算だ。

マクロ経済スライドの「本当の意味」

年金の実質的な目減りを実現するメカニズムが「マクロ経済スライド」だ。これは物価や賃金が上昇しても、年金額の増額をそれ以下に抑える制度である。例えば、物価が3%上昇しても年金額は1.8%しか上がらない。差分の1.2%が実質的な年金カットだ。2024年度、マクロ経済スライドは3年連続で発動され、実質的な年金額は累計で約4%削減された。ある外資系金融機関の幹部は「マクロ経済スライドは、国民に気づかれにくい形で年金を減らす仕組みだ。インフレが続く限り、毎年自動的に実質カットが実行される」と説明する。厚労省は「年金制度は持続可能」と主張するが、その持続可能性は「給付水準を下げ続ける」ことで担保されているに過ぎない。

GPIFの運用リスクという「もう一つの爆弾」

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、運用資産約250兆円を誇る世界最大の年金基金だ。2024年度の収益率は約12%で、運用益は約30兆円に達した。しかし、GPIFのポートフォリオは国内外の株式と債券に各25%ずつ配分されており、株式市場の急落時には巨額の損失が発生する。2020年のコロナショック時には四半期で約17兆円の損失を計上した。筆者の試算では、2008年のリーマンショック級の市場崩壊が再来した場合、GPIFの損失は約60〜70兆円に達する可能性がある。これは年間の年金給付費の約1.2年分に相当する。日銀OBの一人は「GPIFの運用は長期的に見れば成功しているが、短期的な巨額損失が政治問題化し、ポートフォリオの保守化を迫られるリスクがある」と懸念する。

年金は「もらえる」が、「足りない」

結論として、年金制度が完全に崩壊し、1円ももらえなくなる可能性は低い。しかし、「十分な額がもらえるか」は全く別の問題だ。筆者の予測では、現在30代の世代が65歳になる2055年頃の年金額は、現役時代の手取りの30〜35%程度にとどまる。月額にして10〜14万円が現実的な水準だ。これだけで老後の生活を賄うことは明らかに不可能であり、個人の資産形成が不可欠となる。新NISAの生涯投資枠1,800万円を活用し、年利4%で30年間運用すれば約3,200万円の資産を形成できるが、それでも年金と合わせて「ギリギリ」の水準だ。年金制度に過度な期待を持たず、自助努力で補完する姿勢が、これからの世代には求められている。