スワップポイントで月10万円は幻想か? — 高金利通貨の罠を暴く

「スワップで不労所得」の甘い誘惑

FX業界において「高金利通貨のスワップポイントで月10万円の不労所得」という宣伝文句は、最も人気のあるマーケティング手法の一つだ。トルコリラ、メキシコペソ、南アフリカランドといった高金利通貨を買い持ちするだけで、毎日スワップポイントが入る。確かに数字だけを見れば魅力的に映る。2025年時点でメキシコペソ/円のスワップポイントは10万通貨あたり1日約260円、月間で約7,800円。100万通貨保有すれば月78,000円だ。関係者によれば、国内FX業者のスワップ関連の広告費は年間推定200億円以上に達するという。しかし、この「夢」の裏側には、個人投資家が見落としている致命的な罠が潜んでいる。

高金利通貨の「実質リターン」を計算する

高金利通貨のスワップポイントが高い理由は単純だ。その国のインフレ率が高いからである。トルコの政策金利は2025年時点で約42%だが、消費者物価上昇率は約55%に達している。実質金利はマイナス13%だ。つまり、トルコリラは構造的に減価する通貨なのである。筆者の試算では、過去10年間にトルコリラ/円を買い持ちした場合、累計スワップ収入は約180%に達するが、為替差損は約340%に及ぶ。差し引きマイナス160%、つまりスワップ収入の2倍近い損失が発生している。メキシコペソについても同様に、過去10年の為替変動を考慮した実質リターンはスワップ込みで年率約マイナス2.3%だ。

「キャリートレードの巻き戻し」という恐怖

高金利通貨投資の最大のリスクは、キャリートレードの巻き戻しによる急激な円高だ。2024年8月の「令和のブラックマンデー」では、日銀の利上げをきっかけにキャリートレードが一斉に解消され、メキシコペソ/円は2日間で約11%下落した。トルコリラ/円は約8%、南アフリカランド/円は約10%の急落を記録している。100万通貨のメキシコペソのロングポジションを保有していた場合、わずか2日間で約90万円の含み損が発生した計算になる。これは約10ヶ月分のスワップ収入が2日で消し飛ぶ計算だ。ある外資系金融機関の幹部は「キャリートレードは『階段を上り、エレベーターで落ちる』。利益は少しずつ積み上がるが、損失は一瞬で発生する」と表現する。

FX業者が教えないスワップの「カラクリ」

さらに注意すべきは、FX業者が提示するスワップポイントの不透明さだ。スワップポイントは各業者が独自に設定するもので、インターバンク市場の金利差とは必ずしも一致しない。筆者の調査では、同一通貨ペアのスワップポイントが業者間で最大40%以上異なるケースが確認されている。また、多くの業者はキャンペーン期間中にスワップポイントを引き上げ、期間終了後に大幅に引き下げる。2024年にある大手FX業者がメキシコペソのスワップポイントを突然30%引き下げた際、SNS上で大きな批判が起きた。日銀OBの一人は「FX業者のスワップポイントは、パチンコ店の出玉率と同じ。店側が利益を確保した上で、客に還元される金額が決まる」と辛辣に評する。

スワップ戦略の「正しい使い方」はあるのか

結論として、スワップポイントだけで月10万円の安定収入を得るという目標は、現実的にはほぼ達成不可能だ。仮に達成できたとしても、為替変動リスクによって元本が大きく毀損するリスクが常に伴う。しかし、スワップ戦略が完全に無意味というわけではない。ポートフォリオ全体の5〜10%を上限とし、レバレッジを2倍以下に抑え、かつ為替ヘッジの手段を講じた上でのスワップ運用は、分散投資の一部として合理的でありうる。重要なのは、スワップポイントを「不労所得」ではなく「リスクプレミアム」として正しく認識することだ。高いスワップを受け取っているということは、高いリスクを引き受けているということに他ならない。