先物市場の「墓場」— 個人投資家の生存率
日経225先物は、日本の金融商品の中で最も「敗者」を生み出す市場の一つだ。大阪取引所のデータによれば、個人投資家の先物口座の約82%が1年以内に損失を出し、3年以内に取引を停止する。筆者が元ディーラー時代に目撃した数千件の個人投資家の取引履歴を分析すると、確実に負ける人には共通のパターンが存在する。関係者によれば、証券会社の内部では「先物口座の平均寿命は14ヶ月」という暗黙の数字が共有されているという。
負ける人の共通点(1)— 「ナンピン地獄」
最も致命的な共通点は、損失ポジションへの追加投資、いわゆるナンピン(難平)である。日経225先物のラージ1枚の証拠金は約180万円だが、含み損が拡大するたびにポジションを追加し、証拠金の追加入金を繰り返す。筆者の試算では、ナンピンを3回以上行った投資家の最終損益は、1回の損切りで撤退した投資家と比較して平均4.7倍の損失に膨れ上がる。ある証券会社のリテール部門責任者は「ナンピンで救われたケースは統計的に5%未満。残りの95%は傷口を広げただけだ」と語る。日経平均が1000円逆行しただけでラージ1枚あたり100万円の損失が発生する先物市場において、ナンピンは自殺行為に等しい。
負ける人の共通点(2)— 「逆指値を置かない」
第二の共通点は、ストップロス(逆指値注文)を設定しないことだ。プロのディーラーは例外なくストップロスを設定する。筆者が在籍した金融機関では、ストップなしのポジション保有は懲戒処分の対象だった。しかし個人投資家の約67%が逆指値を設定していないというデータがある。その心理的背景には「もう少し待てば戻る」という希望的観測がある。2024年8月5日の「令和のブラックマンデー」では、日経平均が1日で4,451円下落した。この日、ストップロスを設定していなかった個人投資家の多くが強制ロスカットに追い込まれ、追証(追加証拠金)の請求額は業界全体で推定500億円以上に達した。
負ける人の共通点(3)— 「オーバーナイトリスクの軽視」
日経225先物はシカゴのCMEでも取引されており、東京市場の引け後も価格変動が続く。翌朝の寄り付きで前日終値から大きく乖離して始まる「ギャップリスク」は、個人投資家が最も軽視しがちなリスクだ。筆者の分析では、日経225先物の前日比ギャップが200円以上開いた日は、年間約45営業日存在する。500円以上のギャップも年間10〜15日ある。夜間のNY市場や欧州市場の急変、地政学リスクの突発的な発生によって、就寝中に数百万円の損失が発生するケースは珍しくない。ある外資系金融機関の幹部は「オーバーナイトポジションを持つ個人投資家は、保険なしで高速道路を走っているようなものだ」と評する。
先物市場で生き残るための「ディーラーの鉄則」
結論として、日経225先物で個人投資家が生存するためには、プロのディーラーが遵守する3つの鉄則を守る必要がある。第一に、1トレードのリスクを総資金の2%以内に制限すること。1000万円の運用資金であれば、1トレードの最大損失は20万円だ。第二に、勝率ではなくリスクリワードレシオで勝負すること。勝率が40%でも、利益と損失の比率が3対1であれば長期的にプラスになる。第三に、月間の最大損失額を事前に決め、それに達した時点でその月の取引を停止すること。日銀OBの一人は「先物市場はプロ同士の戦場であり、素人が勝てる設計にはなっていない。それでも参入するなら、プロ以上の規律が必要だ」と警告する。感情ではなく、ルールに従って機械的に取引することだけが、この残酷な市場で生き残る唯一の方法なのだ。


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