アメリカ経済が崩壊したら日本はどうなる? — 誰も語らない最悪のシナリオ

「アメリカがくしゃみをすれば、世界が風邪をひく」。この格言は、グローバル経済が複雑に絡み合った現代において、かつてないほどの現実味を帯びている。2026年、アメリカ経済のリセッション(景気後退)リスクが再び注目を集める中、その確率を冷静に分析し、日本経済への波及シナリオを検討する。

リセッション予測の代表的指標

逆イールドカーブ — 最も信頼される先行指標

イールドカーブ(利回り曲線)とは、国債の残存期間と利回りの関係を示したものだ。通常、期間が長いほど利回りが高いが、短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」が発生すると、過去の実績では高い確率でリセッションが続いてきた。

米国債の2年物と10年物の利回り差(2s10sスプレッド)は、2022年7月から2024年後半にかけて逆イールド状態が続いた。歴史的に、逆イールドが解消してからリセッションが始まるまでの期間は平均12〜18ヶ月とされている。この経験則に従えば、2026年はまさにリセッションのリスクゾーンに位置する。

逆イールドは過去7回のリセッションのうち7回すべてを予測しているが、フォールスシグナル(偽の警告)も存在する。指標は万能ではないことを常に念頭に置くべきだ。

サーム・ルール — 失業率ベースの警告システム

FRBのエコノミスト、クラウディア・サーム氏が提唱した「サーム・ルール」は、失業率の3ヶ月移動平均が過去12ヶ月の最低値から0.5ポイント以上上昇した場合にリセッション入りを示唆するというものだ。

2025年後半、米国の失業率は一時的に4.3%まで上昇し、サーム・ルールが点灯した。その後の雇用環境は一進一退だが、完全に危機を脱したとは言いがたい状況が続いている。

ISM製造業景気指数

ISM製造業景気指数が50を下回る状態が長期間続くことも、リセッションの前兆とされる。2025年後半から2026年初にかけて、同指数は48〜50の境界線上で推移しており、製造業セクターの脆弱性を示唆している。

現在のアメリカ経済 — 強さと脆弱性

堅調な側面

  • 労働市場の底堅さ:失業率は4%台前半と歴史的にはまだ低い水準
  • 個人消費の持続:家計のバランスシートは比較的健全で、消費支出は底堅い
  • 企業収益の回復:S&P500企業の収益成長率はプラスを維持
  • AI関連投資の活況:テクノロジーセクターへの設備投資が経済を下支え

脆弱な側面

  • 商業用不動産の悪化:オフィス空室率の上昇が地方銀行のバランスシートを圧迫
  • クレジットカード延滞率の上昇:低所得層を中心に消費者信用の質が悪化
  • 学生ローンの返済再開:パンデミック中の返済猶予が終了し、消費への下押し圧力
  • 中小企業の苦境:高金利環境が中小企業の資金繰りを圧迫

リセッション確率の評価

複数の分析手法を総合すると、2026年中にアメリカがリセッションに陥る確率は以下のように推定される。

  • 逆イールドモデル:35〜40%
  • サーム・ルール:警戒レベル(点灯後の一部回復を考慮)
  • コンセンサス予測(ブルームバーグ調査):30%
  • 総合判断:30〜35%

つまり、メインシナリオはソフトランディング(緩やかな減速)だが、リセッションの確率も無視できない水準にある。

日本への伝播シナリオ

チャネル1:貿易ルート

米国は日本にとって最大の輸出先の一つだ。米国の景気後退は、自動車、半導体製造装置、工作機械などの対米輸出を直撃する。特に自動車産業は、トヨタ、ホンダ、日産といった大手メーカーの北米売上が総売上の30〜50%を占めており、影響は甚大だ。

チャネル2:金融市場

米国株の暴落は、日本株にも即座に波及する。日経平均株価は米国市場との相関が高く、NYダウやS&P500の急落は東京市場の大幅下落を引き起こす。また、リスクオフの動きは急激な円高を誘発し、輸出企業の業績見通しをさらに悪化させる。

チャネル3:信頼感とマインド

「世界最大の経済大国がリセッションに入った」というニュースは、日本の消費者と企業の心理に大きな影響を与える。消費者信頼感指数の低下は消費の手控えにつながり、企業の設備投資計画の見直しにもつながる。この「マインドチャネル」は数値化しにくいが、実際の経済への影響は大きい。

チャネル4:日銀の政策変更

米国発のリセッションが深刻化した場合、日銀は利上げを停止し、場合によっては利下げに転じる可能性がある。これは先述のシナリオCに相当し、円高と株安のダブルパンチが日本経済を直撃するシナリオだ。

過去のリセッション伝播の教訓

2008年リーマンショック

2008年の金融危機は、米国発のリセッションが世界に伝播した最も劇的な事例だ。日本のGDPは2009年に5.4%のマイナス成長を記録し、輸出は前年比24.9%の減少となった。日経平均は2007年の18,000円台から2009年に7,054円まで暴落した。

2020年コロナショック

パンデミックによるリセッションは、リーマンショックとは異なり「外生的ショック」だったが、日本経済への影響は甚大だった。ただし、大規模な財政・金融支援により回復は比較的早かった。この経験から得られる教訓は、政策対応の迅速さが伝播の深刻度を左右するということだ。

投資家・企業への示唆

個人投資家向け

  • ポートフォリオの分散確認:米国株一極集中になっていないか確認
  • 現金比率の適正化:急落時の買い増し余力を確保
  • ディフェンシブセクターの検討:生活必需品、ヘルスケア、公益事業など
  • 債券の役割再評価:金利のある世界では、債券がポートフォリオのクッション機能を果たす

企業向け

  • 為替ヘッジの強化:急激な円高に備えたリスク管理
  • 在庫管理の最適化:過剰在庫のリスクを低減
  • 資金調達の多様化:信用収縮に備えたバックアップラインの確保

結論

アメリカ発リセッションの確率は30〜35%と、メインシナリオではないものの、備えを怠ることのできないレベルにある。日本への伝播は、貿易、金融市場、マインド、金融政策の4つのチャネルを通じて生じ、その影響は広範囲に及ぶ。不確実性が高い時代だからこそ、最悪のシナリオを想定した「ストレステスト」を個人レベルでも実施しておくことが、将来の自分を守る最善策となるだろう。