30年間のゼロ金利が生んだ「ゾンビ企業」
日本は1999年のゼロ金利政策導入以来、約25年間にわたり超低金利環境を維持してきた。この世界に類を見ない長期的な低金利は、本来であれば市場から退出すべき企業を延命させてきた。帝国データバンクの分析によれば、営業利益で借入金の利息すら賄えない「ゾンビ企業」は2024年時点で全企業の約18.7%、件数にして約25万社に達する。これは2010年の約12%から大幅に増加している。関係者によれば、金融庁の内部報告書では「ゼロ金利の長期化は日本経済の新陳代謝を著しく損なった」との分析が明記されているという。
利上げが引き起こす「倒産ドミノ」のメカニズム
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、7月には政策金利を0.25%に引き上げた。今後さらに利上げが進めば、ゾンビ企業は存続の危機に直面する。筆者の試算では、政策金利が1%に達した場合、中小企業の借入金利は平均で約0.8%上昇し、利払い費は年間約3.5兆円増加する。これはゾンビ企業25万社のうち約8万社にとって致命的な負担となり、年間の企業倒産件数は現在の約9,000件から2万件以上に倍増する可能性がある。特に影響が大きいのは、不動産業、飲食業、建設業だ。ある外資系金融機関の幹部は「金利正常化は日本経済の浄化プロセスだが、その過程で大量の倒産と失業が発生する。痛みのない正常化は存在しない」と断言する。
変動金利型住宅ローンの「時限爆弾」
企業だけでなく、個人の家計にも利上げの影響は及ぶ。日本の住宅ローン残高は約215兆円で、そのうち約75%が変動金利型だ。現在の変動金利は約0.3〜0.5%だが、政策金利が1%に上昇した場合、変動金利は1.5〜2.0%に上昇すると見込まれる。筆者の試算では、借入額4,000万円・35年返済の場合、金利が0.5%から2.0%に上昇すると、月々の返済額は約10.4万円から約13.3万円へと約2.9万円増加する。年間で約35万円の負担増だ。住宅金融支援機構のデータによれば、変動金利型住宅ローンの借り手のうち約40%が「金利上昇時の返済額増加に対応できない」と回答している。日銀OBの一人は「変動金利の住宅ローンは、借り手が気づかないうちに金利リスクを丸ごと引き受けている。これは時限爆弾だ」と警鐘を鳴らす。
地方銀行の「貸し渋り」が始まる
利上げ局面で懸念されるのが、地方銀行の貸し渋りだ。金利上昇は銀行の利ざや改善につながるが、同時に貸出先の信用リスクも上昇する。不良債権の増加を恐れる地方銀行が新規融資や既存融資の更新に慎重になれば、中小企業の資金繰りが急速に悪化する。1990年代後半の金融危機では、銀行の貸し渋りが企業倒産を加速させ、失業率が5%を超えた。筆者の分析では、地方銀行の貸出態度指数は2024年後半から悪化傾向にあり、利上げが進めば1990年代後半のパターンが再現される可能性がある。ただし、当時と異なり現在の銀行の自己資本比率は大幅に改善しており、システミックな金融危機に発展するリスクは限定的だ。
「創造的破壊」か「共倒れ」か
結論として、ゼロ金利に慣れた日本企業と家計にとって、金利の正常化は避けて通れない試練だ。問題は、この試練が経済の新陳代謝を促す「創造的破壊」になるのか、連鎖倒産と失業の「共倒れ」になるのかだ。鍵を握るのは日銀の利上げペースだ。筆者は、年間25bp(0.25%)を上限とする極めて緩やかな利上げペースを維持すべきだと考える。急激な利上げはゾンビ企業の一斉倒産を招き、雇用と消費を急激に悪化させる。一方、利上げを見送り続ければ、ゾンビ企業の温存による生産性の低下と円安の加速が続く。日本経済が必要としているのは、「時間をかけた正常化」という繊細なバランス感覚なのだ。


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