IMFの「年次審査報告書」が示す警告
国際通貨基金(IMF)は毎年、加盟国の経済政策を審査する「4条協議報告書」を公表している。2024年に公表された日本に関する報告書は、過去10年で最も厳しい内容となった。報告書は日本の財政状況を「先進国中最悪」と断じ、債務の持続可能性について重大な懸念を表明した。関係者によれば、IMFの対日審査チームの内部メモには「日本の財政再建計画には信頼性がない」という一文が含まれていたという。この「最後通牒」に近い警告を、日本のメディアはほとんど報じなかった。
IMFが要求する「3つの処方箋」
IMFの報告書が日本に突きつけた処方箋は3つある。第一に、消費税率の段階的引き上げだ。報告書は「日本の消費税率10%は、OECD平均の約19%と比較して著しく低い」と指摘し、2030年までに15%、長期的には20%への引き上げを勧告している。第二に、社会保障支出の抑制だ。高齢者の医療費自己負担の引き上げ、年金支給開始年齢の68歳への引き上げ、介護保険の自己負担率の見直しが具体的に提言されている。第三に、労働市場改革だ。解雇規制の緩和、女性と高齢者の労働参加率のさらなる向上、外国人労働者の受入拡大が求められている。筆者の試算では、これら3つの処方箋がすべて実施された場合、2035年までにプライマリーバランスの黒字化は達成可能だが、政治的にはほぼ実現不可能な内容だ。
日本政府の「聞く耳を持たない」姿勢
IMFの勧告に対する日本政府の反応は、毎回「日本の事情は特殊であり、IMFの画一的な勧告は必ずしも適切ではない」という趣旨のものだ。確かに、IMFの勧告には日本の特殊性を十分に考慮していない面もある。自国通貨建て債務が大半を占める日本と、外貨建て債務に依存する新興国では、財政危機のメカニズムが根本的に異なる。しかし、筆者はIMFの警告を完全に無視することの危険性を指摘したい。ある外資系金融機関の幹部は「IMFの勧告を無視し続けた国が最終的にIMFに救済を求めるというパターンは、過去70年間で40回以上繰り返されてきた。日本が例外である保証はない」と警告する。
「日本国債格下げ」のトリガーとなるか
IMFの厳しい評価は、格付け機関の判断にも影響を与える。現在、日本国債の格付けはムーディーズがA1、S&PがA+、フィッチがAで、先進国としては下位グループに位置している。IMFの報告書が格付け機関の日本評価をさらに引き下げるトリガーとなる可能性がある。筆者の分析では、日本国債が1段階格下げされた場合、長期金利は0.2〜0.3%上昇し、利払い費は年間約2兆円増加する。さらに、一部の機関投資家(年金基金や保険会社)は格付けが一定水準を下回った国債の保有を制限する内部規定を持っており、売り圧力が加速するリスクがある。日銀OBの一人は「格付けの1段階引き下げは大した問題ではないが、2段階以上の引き下げは市場心理を根本的に変える。そのリスクは確実に高まっている」と述べる。
日本は「最後通牒」にどう応えるべきか
結論として、IMFの勧告は厳しすぎる面があるものの、その根底にある問題意識——日本の財政の持続可能性に対する懸念——は正当なものだ。消費税20%やGDP比2%の歳出削減は政治的に非現実的だが、何もしなくてよいわけではない。筆者が提案する現実的な方策は、第一に消費税の段階的な1%ずつの引き上げ(年間約2.7兆円の増収)、第二に社会保障の「選択と集中」(高所得高齢者への給付削減)、第三に成長戦略による税収の自然増だ。IMFの「最後通牒」を無視するのでも、全面的に受け入れるのでもなく、日本の実情に合った形で財政健全化を進めることが、唯一の合理的な選択である。問題を先送りする時間的余裕は、金利の上昇とともに急速に失われつつある。


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